フードバンクってどんな仕組み?どんな活動をしているの?その取り組みをご紹介します。
2020年より発見された新型コロナウイルス。感染拡大に伴い「営業停止」「失業」「生活困窮」と数多くの企業や国民に大きなダメージを与えました。最近ではウクライナ情勢による物価高騰で、これまでの貧困層にも追い打ちをかけている状況です。
一方、その背景で今、「食の銀行」ともいわれるフードバンクやフードドライブを通じて国民を支援する活動が盛んとなっています。テレビやニュースなどで、一度は見聞きしていることでしょう。
「フードバンクの目的って何?」
「どんな人たちが参加するの?」
「食品問題はそんなに酷いの?」
中にはフードバンクの言葉は知っていても、その具体的な仕組みや活動までは理解していない方も多いのではないでしょうか。
当記事ではフードバンクがどのような仕組みで活動を行うのか。また、フードバンクが社会にどのような貢献をもたらしているのか。
メリット・デメリット等も踏まえて、詳しくご紹介します。
目次
1.フードバンクの仕組み
・フードバンクとは
・フードバンクを利用するには
2.フードバンクに寄付する方法
3.フードバンクのメリット・デメリット
4.フードバンクが解決する課題
・貧困問題
・食品ロス問題
5.まとめ
1.フードバンクの仕組み
まずは、フードバンクがそもそもどういった意味、活動を指すのか理解しておきましょう。
フードバンクとは(定義、活動の具体例)
フードバンク(Food bank)には決まった定義はありませんが、その役割は「食べ物が余っている人と食べ物が足りなくて困っている人をつなぐ」こと。つまり「食糧の銀行」です。
「食べ物が余っている人」とは企業や農家の人などを指します。フードバンクでは支援者、寄贈者ともいいます。一方「食べ物が足りなくて困っている人」とは、様々な理由から生活に困窮している人などを指し、利用者、受給者ともいいます。
日本を含め、世界中には様々な理由から「栄養のある食事が十分に取れない人たち」が数多くいます。その中には、栄養不足が原因で病気にかかり、亡くなる子どもたちも少なくありません。フードバンクがあることで、生活困窮者はいざというときに頼ることができます。安心できる場所を提供することで、生きる希望にも繋がります。
まだ食べられるのに廃棄される食品を集め、その食品を困っている人に届ける「フードバンク」の取り組みは、一人でも多くの生活や命を救うことに大きな貢献をもたらしています。
フードバンクを利用するには(対象者、もらい方など)
フードバンクの利用には、支援と受給でそれぞれルールが異なります。
食べ物を支援する
フードバンクは企業や農家だけでなく「個人」でも支援できます。支援者に年齢などの制限はありませんが、支援できる品物は団体によって異なります。具体的には、まずフードバンクの取り組みをする団体に企業、農家の方や個人が余った食べ物を寄付します。そして集まった食品を種類別に分け、それを対象の福祉施設やホームレス支援団体、子ども宅食などへ寄付する流れです。
フードバンクの活動を行う団体は、おもにNPO(非営利法人)です。NPO法人や認定NPO法人がそれにあたります。ほかにも社団法人や財団法人がフードバンクに取り組むケースもあります。
>>NPO、社団法人などの「非営利組織」について
食べ物を受け取る
受給者は、基本的に「生活困窮者」を対象とします。政府が公布した生活困窮者自立支援法の第三条によると、生活困窮者の定義は「就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」となります。
たとえば、次のような方がそれにあたります。
・貯金がなく、頼る人がいない |
食べ物の受け取りは、福祉分野の施設や団体、法人と、個人とで方法が異なります。
福祉施設や団体の場合は、フードバンク活動を行う団体に登録し、「宅配」または「指定場所」などで食べ物を受け取ります。ただ、中には登録なしでも受け取り可能など、フードバンク活動を行う団体によって仕組みは異なりますので、団体とあらかじめ相談し、お互いの活動が継続できるような関係性を作ることをお勧めします。
個人の場合は、各フードバンクと提携する福祉施設や団体から食品を受け取ります。各フードバンクでは、さまざまな団体や施設とのネットワークが構築されており、その提携先が個人の方へ食品を提供する場を設け(フードパントリー)、そこで食べ物を受け取る流れになります。フードバンク活動を行う団体が直接フードパントリーを行う場合もありますが、フードパントリーの多くは福祉施設や団体が実施しています。
フードバンクの提携先には「福祉ボランティア団体」や「子ども食堂」などがあります。もしフードバンクを必要としている場合は、福祉団体や子ども食堂などに取り組むNPO法人に相談してみましょう。そのほか、各市区町村の自治体に設置された「生活困窮者の総合相談窓口」でも相談に乗ってもらえます。
2.フードバンクに寄付する方法(場所、品物、喜ばれるもの、ルールなど)
ここではフードバンクに寄付する方法を、もう少し具体的に見ていきましょう。
フードバンクの実施場所
基本的に、フードバンクの活動はNPOの「運営事務所」でおこなわれます。ただし、中には場所や諸事情の関係で事務所までいけない支援者も少なくないため、宅配などを使って食べ物を集めます。
最近ではイベント会場、ショッピングモール、ドーム球場に「フードドライブ」として出向く場合も多いです。フードドライブは、家庭で余った食品を学校または職場などに持ち寄り、福祉施設や子ども宅食・それらを支援するNPO、フードバンク団体といった場所に届ける活動です。ドライブとは「募集のための宣伝」「運動」「寄付」などの意味をもちます。
フードバンクとフードドライブが一緒にされることも多いですが、フードドライブは「各家庭で使い切れない未使用食品を募り、寄贈する」活動を言い、フードバンクは家庭に限らず広く「未使用食品を募り、管理する」「施設や個人などに配給する」までの活動を言います。フードバンク団体が自らフードドライブで食品の提供・支援の呼びかけを実施することもあります。
さらに、昨今はコンビニエンスストアでもフードドライブの取り組みが盛んです。
2021年4月、大手コンビニチェーンのファミリーマート(FamilyMart)が「ファミマフードドライブ」の取り組みを開始しました。
各NPOや法人の協力のもと、2022年8月までに集まった食品は約50トン。お茶碗約33万杯分のごはんの量に相当します。そのほか、セブンイレブンでも一部店舗にてフードドライブ活動が始まっています。コンビニ実施のフードドライブは、初めての方にもハードルが低いと思いますので、食べ物の寄付を検討されている方は、ぜひコンビニ実施のフードドライブも検討してみてください。
>>ファミマフードドライブの実施場所
>>セブンイレブンのフードドライブ
支援できる食品の種類
フードバンクやフードドライブへ、どんな食品も寄付できるわけではありません。賞味期限が近いものや食品の種類によっては、受け入れを断られる場合もあります。
フードバンクの寄付で喜ばれる食品には、次のようなものがあげられます。
・米 |
個人が寄付する場合、一般的には常温保存ができる食品の寄付が多いです。冷蔵食品や冷凍食品、生鮮品は、企業の寄付でしか受付をしないケースもあります。
また賞味期限は団体によりますが、1ヶ月〜3ヶ月以上先のものが一般的です。
フードバンクに法的ルールは存在する?
個人がフードバンクで食べ物を受け取ったり支援する場合に、法律上のルールはありません。ただし、かならずフードバンクやフードドライブを行う団体のルールに従う必要があります。一人ひとりが協力し、正しく活用することは、フードバンクの活動を継続することにも直結します。
一方で団体がフードバンク活動をおこなう場合は、農林水産省が「フードバンク活動における食品の取り扱い等に関する手引き」を公表しています。この手引きでは、衛生や健康上の管理、点検、食品の保存温度、活動報告書の記載方法などが記されています。
また国税庁が公表する「フードバンクへ食品を提供した場合の取扱い」によると、食品の取り扱いに関する情報の記録及び保存、結果の報告などの義務を定めています。またフードバンク活動では、「食品ロス削減」に関する法律、税務上の取り扱いにも注意が必要です。
3.フードバンクのメリット・デメリット
フードバンク活動をすることで得られるメリットを、それぞれの利用者観点からまとめました。
支援側のメリット
支援者のメリットは、食品ロスを減らせることです。食べ物も一般ゴミと同じく、廃棄するのにお金がかかります。食品ロスを減らすことで、廃棄までにかかるコストを削減できます。また企業では社会貢献活動の一環となり、行政では国民の食料問題の解決へとつながります。
受給側のメリット
フードバンクを活用することで、受給者は「食費」を節約できます。
近年はコロナの影響から物価高騰が目立っています。その一方で、金銭の問題から食事をまともに取れない人、いわゆる「生活困窮者」が急増しています。その中には、数日間まともに食事をとっていない人、一日一食で我慢している人も少なくありません。
フードバンクのおかけで、利用者は食に関する喜びが増えます。食事を楽しむことができます。
「少しでも安心して食べ物を口にできる」ことは、生活困窮する人びとの生きる希望につながっているのです。
デメリット
フードバンクの欠点は「限界がある」ことです。
フードバンクは「ボランティア」によって支えられています。とはいえ、食品を管理したり、人・車を使うためにお金がかかります。団体に食品や寄付が集まらなければ、経済的に苦しむ人すべてに手が回らなくなります。実際にフードバンクで食べ物を「受け取りたくても受け取れない」方々たちも存在します。
「ずるい」と感じてしまうなど、不平等性も生まれているのです。
フードバンク団体は企業や個人の支援だけでなく、行政(農林水産省など)から助成金や補助金を受け取り、活動資金として賄うケースも少なくありません。しかし、新型コロナやウクライナ情勢問題による物価高騰が進むなかで、フードバンクの需要と供給が追いついていないのが現状です。
デメリットというよりは、フードバンク活動における「今後の課題」と言えます。
ここまでのおさらい |
4.フードバンクが解決する課題
「なぜフードバンクが必要なの?」
「フードバンクをすることで、どんな社会問題の解決に繋がるの?」
フードバンクがどのように社会に貢献しているのか、もう少し活動や取り組みを具体的に知りたい方も少なくないと思います。
改めて、フードバンクが解決する課題の貧困、食品ロスの2つの現状とそれに対するフードバンクの取り組みを紹介します。
貧困問題
いま世界では「貧困」が大きな社会問題の一つとなっています。SDGs(持続可能な開発目標)の1つ目にも「貧困をなくそう」と掲げられています。
貧困の現状
日本を含め、世界中の6億8,500万人が極度の貧困状態にあると言われています。「極度の貧困」とは、一日あたり1.9米ドル(日本円で約250円)以下で生活する人のことです。市民の10人に1人相当が、まともに食べ物を口にすることができずにいます。
こうした貧困状態に置かれる人びとは、不十分な食事で栄養不足になるだけでなく、病気にかかっても基本的な治療でさえ受けることができません。幼い子どもの場合は、餓死が原因で命を落としてしまうこともあります。
人権差別、紛争や内戦、災害など。さまざまな要因が重なり、貧困は起きてしまいます。とはいえ、各国には国の事情もあるため、貧困問題を解決しようと法律や制度をすぐに変えることはできません。
他人事といえない日本の貧困
昨今、日本でも貧困問題が深刻化しています。なかでも「相対的貧困」が上昇傾向にあります。相対的貧困とは、国や地域の生活水準と比較して平均よりも貧しい生活レベル状態のことです。
厚生労働省が公表した「2019年国民生活基礎調査」によると、2018年の貧困線(世帯年収)は127万円、相対的貧困率は15.4%です。過去の推移を見ると、約30年前の1994年(13.8%)から2000年代にかけて、相対的貧困率が上昇していることがわかっています。
相対的貧困率があがる理由はさまざまですが、なかでも社会の高齢化が大きな要因ともされています。年金受給者が増え、貧困率を上昇させている傾向なのです。30代以下の貧困が減少しているのが、その根拠にあたります。
それでも昨今は、新型コロナウイルスの影響による「失業」や、世界情勢による「物価高騰」などで、生活救助を求める需要は増えています。地域によっては「食べ物が高くて買えない」と、自治体やフードバンク団体に相談を持ちかける人が1日から2日の頻度で見つかっています。
このように、私たちが住む日本の貧困問題も、軽視できないのが実情なのです。
貧困の命をつなぐ「フードバンク」
貧困への支援方法は多岐にわたりますが、その一つにあたるのが「フードバンク」です。企業や個人から食べ物の寄付を募り、生活困窮する人びとに無償で提供します。
現在、日本には150以上のフードバンクが存在します。そして、フードバンクの中でも先駆けとなる団体が「セカンドハーベスト・ジャパン」です。日本のフードバンク市場では、一度はかならず目にする支援団体です。
セカンドハーベスト・ジャパンは2002年3月11日にマクジルトン・チャールズ氏(現理事長)が日本版のフードバンクを広めるために設立したNPO法人です。理事長が自ら15ヶ月間ブルーシートでの生活を体験するなど、客観的な視点でさまざまな路上生活者への支援を続けています。
団体立ち上げ時の提携先はわずか3箇所でしたが、今現在は2,258もの企業・団体から食品の提供を受けています。また配布した食品の合計食数が310万食、配布した食品の小売価格は15億を超えるなど、フードバンクの一任役として日本の生活困窮問題に大きく貢献しています。
有志で設立した「認定NPO法人 セカンドハーベスト名古屋」
さらに、セカンドハーベスト・ジャパンの有志を受けて、フードバンクの設立を決意した団体もあります。
愛知県名古屋市で活動する「認定NPO法人 セカンドハーベスト名古屋」では、名古屋市を中心に東海3県でフードバンクに取り組んでいます。食品メーカー、卸売業者、スーパーマーケット、個人などから食べ物の提供を受け、それらを児童養護施設やホームレス支援団体に届けています。
2020年には243社もの企業と個人から合計516.7トンの食品を確保しました。これはカップヌードル646万食分、茶碗一杯分のごはんなら約344万食分に相当します。そのほか、180を超える福祉施設や団体に食品の提供、フードバンク活動に対して赤い羽根共同募金などから助成を受けるなど、食品以外の支援実績も豊富です。
現在は20代から80代までの約50名がボランティアスタッフとして参加します。
150あるとはいえ、まだまだ数少ない貴重なフードバンク。今後の取り組みにも注目したいところです。
>>セカンドハーベスト名古屋を詳しくみる
食品ロス問題
フードバンクの活動は、食品ロス(フードロス)問題とも密接な関係にあります。
一度は食品ロスという言葉を聞いたことがあるかもしれません。
食品ロスとは、「期限切れ」「食べ残し」「売れ残り」などのまだ食べられる食品が捨てられてしまう状態です。私たちが意識しないところで、数多くの食品ロスが発生しています。
食品ロスの現状
現在、世界中で年間13億トンの食べ物が廃棄されています。そのうち日本は年間612万トンに及びます。これは国民一人が毎日、茶碗一杯分の食べ物を捨てている計算です(2017年度推計値)。
また、この数字には企業と個人、それぞれの廃棄量が含まれています。
日本における食品ロスは、大きく分けて以下の2つです。
1. 事業系食品ロス
2. 家庭系食品ロス
事業系食品ロス
一つが「事業系食品ロス」です。事業系食品ロスとは、スーパー、コンビニなどの小売店での売れ残りや返品、飲食店の食べ残し、メーカーの規格外品などで廃棄される食料です。日本では年間328万トンもの事業系食品ロスが出ています。
家庭系食品ロス
もう一つが「家庭系食品ロス」です。家庭系食品ロスとは、料理の作りすぎによる食べ残し、買ったまま一度も口にせずに捨てられた食べ物、野菜や果物の芯や皮(不可食部分)を除去する際に一緒に除去された可食部分などのことです。年間284万トンの家庭系食品ロスが出ています。
食品ロス問題に繋がる理由
フードバンク、またはフードドライブをおこなうことは、「食品ロス削減」に貢献できます。企業だけでなく、個人の力も必要です。
フードバンクでは、消費期限が切れる前に消費しきれない食品を預かり、必要としている人に提供します。そして食品のゴミを減らすだけでなく、一人でも多くの貧困を「置き去りにしない」ための役割ともいえるでしょう。
SDGsでも、普遍的な目標として「誰も置き去りにしない」という約束を掲げています。
同国民として、あらためて日本の食品ロス問題を理解しておくべきと言えます。
5.まとめ
今回はフードバンクの目的や活動についてご紹介しました。
フードバンクは、企業や個人で余っている食べ物を募り、適切に管理したのち「必要な人」に届ける活動です。海外だけでなく、日本でもこれまで貧困や食品ロスが問題視されてきました。
行政や団体の協力のもとフードバンクの活動を行うことで、貧困や生活困窮者の支援、食品ロス削減にも大きく貢献しています。
私たち個人ができることは大きく2つです。
一つが「食品を無駄にしない」こと。
食べきれない食品はできるだけ買わない、食べられる分だけを購入、調理することを心がけましょう。また食品ロスが減ることで、ゴミの「焼却にかかるコスト」「焼却して発生するCo2削減」も抑えられます。
そして、もう一つが「団体を応援する」ことです。
フードバンク団体の多くはボランティアと寄付金で成り立っています。活動資金がなければ、フードバンク活動を継続することは困難です。食品の提供だけでなく、寄付や募金、ボランティア活動への参加でもフードバンク団体を応援できます。
普段の私生活のなかでも、ちょっとした社会貢献を取り入れてみませんか。
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